BLUE STAR|ブルースターマガジン

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山梨県北杜市ギャラリートラックスにて、SIDE CORE(サイドコア)が主催する合同の展覧会「路・線・図/RO・SEN・ZU」が3月25日から開催中だ。BIEN,HITOTZUKI,鈴木ヒラク,小畑多丘,TENGAone,松下徹,Yang02の7組のアーティストが参加。ドローイング表現を軸に作家と作品をキュレーションした展覧会となっている。ドローイングとは、美術的な解釈で線画を指す表現である。

サイドコアは2012年に「都市における表現の発展」をコンセプトに出現した、アートインスタレーションプロジェクトだ。サイドコア--日本美術と「ストリートの感性」--を神宮前BA-TSU ART GALLERYにて開催。以後、会期や形式に縛られることのない形で人々や場所を巻き込みながら展覧会を開催。いずれもストリートアートの文脈に携わるアーティストや、アカデミックアートとの橋渡しのような作品性を持ったアーティストが選出されている。第3回サイドコア --AT ART UWAJIMA 2013--以来、再び東京という「都市」を飛び出して、青森県弘前市と山梨県北杜市にて2箇所を巡る展示が今回の「路・線・図/RO・SEN・ZU」だ。
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2期目のスタートを飾る3月25日、ギャラリートラックスではオープニングレセプションが開催された。温暖な気候が連日続きいよいよ春かと予感していたが、この日は全国的に真冬に戻ったかのような寒さとなった。外の寒さとはうってかわってギャラリーはあたかかく、トラックスでのレセプション名物ともいえる料理が並ぶ。各参加アーティスト、関係者、観覧希望者が一堂に会していた。
サイドコア代表を務める高須咲恵の挨拶からレセプションパーティが始まる。この2日前に参加希望のメールを送ったのだが、快く歓迎してくれた人物だ。気さくにアーティストたちとコミュニケーションしているところを見ると、これまで互いに築いてきた信頼の厚さがうかがえる。ビジネスライクな関係ではない、数々の現場を共に乗り越えた仲間といった印象だ。アーティストがサイドコアに集まり、見る者を巻き込んでいく理由を彼女の振る舞いや人柄が体現していた。ほんのわずかな時間でもそう感じるには充分な邂逅だった。
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しばしの歓談を経て、参加アーティストでありサイドコアの運営に深く関わる松下徹がギャラリーツアーを提案してくれた。客観的な視点で作品や参加アーティストについての説明は非常に分かりやすい。小畑多丘が飛び入りで、自身の作品を解説してくれるという贅沢なサプライズもあった。アクリル板に描かれた小畑多丘のドローイング作品はナイキバスケのウェブCMで制作・使用されたもの。この作品を展示するために上部にあてがわれた木材は、ギャラリーの壁の曲面に併せその場で制作したという。「設置する際の留め具など余計なものを見えないようにするため、木組み構造で作りました」小畑多丘の徹底した美意識が集約された言葉だ。窓から日が指した際に、作品に落ちる影まで想定して設置されている。
今回展示されているようなドローイング作品は、自身の個展では展示されることはないだろうと本人は語る。小畑多丘の作品といえば木彫でブレイクダンスの身体性を表現する圧巻の「B-BOY」シリーズである。しかし、本展覧会では木彫作品を制作する際に出た木型を使う焼き物の作品群や、「B-BOY」シリーズの要素を切り取り、粘土を使って対極の表現で示した新しい作風の制作作品が展示され、パブリックイメージと異なる小畑多丘のB面ともいうべき表情を覗くことが出来る。「路・線・図」のキュレーションと展示作品は、サイドコアというフォーマットでギャラリートラックスだからこそ実現した貴重な機会となっているのだ。

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ちょうど一年前に「甲府ストリート再生事業」の元に行われた、「#kofumuralproject」で甲府市内に壁画を制作したHITOTZUKI(ヒトツキ)。「MURAL DECORD」シリーズは壁画で描いた図(正確にはそれに近い図を再現して)を絵画サイズにフォーマットした作品。「普通は下絵を描いて、大きな壁画を描く。HITOTZUKIの場合は、その逆というのが面白い」と松下徹は話してくれた。美しい線と塗りで、風景と調和する無限の広がりを感じさせながら、日本画独特の平面的な構図を継承する。ストリートアートと日本美術の両面を一度分解し、HITOTZUKIのフィルターを通して再構築されたオルタナティブな世界観が作品の魅力。
TENGAone(てんがわん)の作品は一見するとダンボールを破って描かれた作品に見えるが、リアリティ溢れる写実描写を得意とするTENGAoneならではのギミックが施されている。見る者がその仕掛けに気づくか否かによって、愛らしくもあり、シニカルにも感じさせるのだ。日本を代表するグラフィティライターの第一人者による圧倒的なスキルの為せる技。他にもオブジェ作品が展示されており、それぞれが今にも動きだしそうなほどにリアルで不気味で、可愛らしい。
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別室には、Yang02(やんつー)の作品がBIEN(びえん)作品と共にセッティングされていた。Yang02は別の展示制作により不在とのことで、代わりに愛弟子であり、ライバルという石毛さんが作品を紹介してくれた。ロボットやプログラムを構築し、絵画を制作するYang02ならではの手法が用いられた作品だ。滋賀県近江八幡市に立つ昭和初期の町家を改築したボーダレス・アートミュージアム「NO-MA」に展示されている作品と連動し、リアルタイムでロボットが描いたドローイングのラインを画面に表示する。映し出されるラインはグラフィティのスローアップ手法(曲線でふわふわ感のある文字が連なっていく、グラフィティといえばイメージする人が多い手法)のリズミカルな線の特徴をAIに学習させ、データ量に比例して上達していくという。人とロボットの「絵を描く」ことの違いにまでテーマを掘り下げた実験的作品である。松下徹いわく「あまり言いたくはないのですが」と冗談交じりに前置きをした上で、「絵画表現の最先端を行くYang02はアート界のスティーブ・ジョブズですね」と評した。対してサイドコアの名付け親でもある松下自身の作品は、ある意味でYang02に通ずる「プログラム」に近いものだが、その手法はアナログ的だ。独自に調合した塗料での化学反応や振り子の原理を用いて制作される。半自動生成された作品には魔方陣のような幾何学模様が描かれ、抜群の存在感を放っていた。
人が読み書きする様々な言語記号、自然界に存在する土や植物を使い、ドローイング表現をディープかつミニマルに表現した鈴木ヒラクの作品や、身の回りのものをランダムに置いて輪郭をなぞる、視覚の多様性に意識を向けたBIENの作品など、全ての展示に見どころがある。東京、そして遠方は茨城県つくば市から足を運んだ一般参加者たちとともに、ギャラリーツアーに耳を傾け目を見開いた。
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「大きなテーマは、ドローイングと移動。ストリートアートも場所や身体を移動させて描かれるもの。アートを通じ文化的な移動と交流を図り、路線図を描くことが本展覧会の目的です」ツアーの最初に「路線図」と名付けられた意味と目的を話してくれた。7組のアーティストによるドローイング(線)と場所(点)を結び、サイドコアによる文化的地図を描いていくのが「路線図」なのである。
一口にドローイングといっても、先に紹介したように、個性の際立った7組による作品は、表現もキャンバスとなる題材もまるで違う。そこに、合同展覧会の醍醐味がある。ギャラリートラックスという一地点だからこそ成立する展示と、そこに集ったアーティストそれぞれが描く線を作品から見出し繋げていくことで、見る者の路線図が出来上がっていくのだ。展覧会は4月16日まで、金、土、日、月のみ開廊している。旅をするアート展が、新しい視点と新しい地図を日常に与えてくれるかもしれない。

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展覧会概要
参加アーティスト: BIEN / HITOTZUKI / 鈴木ヒラク / 小畑多丘 / TENGAone /松下徹 / yang02 
タイトル:SIDE CORE 路・線・図 
第1期:2017年3月20日(月) - 3月21日(火) 
会場:SPACE DENEGA / 住所: 青森県弘前市上瓦ヶ町11-2 
時間:3月20日 17:00-21:00/3月21日 9:00 - 13:00
第2期: 2017年3月25日(土) - 4月16日(日) 
会場:GALLERY TRAX / 住所: 山梨県北杜市高根町五町田1245 ※バスタ新宿より、新宿~諏訪・岡谷・茅野線で2時間30分程度、徒歩10分
時間:11:00~17:00 金、土、日、月曜日オープン
イベント
2017年3月20日(月)20:00~「OPEN TABLE MEETING」@SPACE DENEGA 
2017年3月25日(土)15:00~(予約制)「GALLERY TRAX オープニングパーティー」 
主催: SIDE CORE(代表 高須咲恵) 
問い合わせ: sidecore.tokyo@gmail.com
 
SIDE CORE RO・SEN・ZU Exhibiton - OUTLINE
BIEN / HITOTZUKI / HIRAKU SUZUKI / TAKU OBATA / TENGA ONE / TOHRU MATSUSHITA / YANG02
Term1: 2017/3/20 (mon) - 2017/3/21 (tue) 
SPACE DENEGA: 11-2 Kamigawaramachi, Hirosaki-shi. Aomori 
3/20/ 17:00 - 21:00 / 3/21 9:00 - 13:00
Term 2 : 2017/3/25 (sat) - 2017/4/16 (sun)
GALLERY TRAX: 1245 Gochoda, Takanemachi, Hokuto-shi. Yamanashi
Open only Friday - Monday (11:00 - 17:00)
 
Event 
2017/3/20(mon) 20:00 - "OPEN TABLE MEETING"     
2017/3/25(fri) 15:00 - "Gallery TRAX opening party"
Curated by SIDE CORE (Sakie Takasu)
Contact: sidecore.tokyo@gmail.com
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Article=Tomohisa MOCHIZUKI

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日常を、明るく照らすプロダクトブランド

最終号で特集した画家、田代敏朗が自身の作品をプロダクトに落としこんだブランドを立ち上げた。実は取材時にもこの構想はお話してくれていたのだが、本誌掲載においてはリリース前だったこともあり割愛させていただいた。ブランド名は「bright room(ブライトルーム)」。ロラン・バルト著作の「明るい部屋」にインスパイアされたネーミングだ。「内容にもちろん触発された部分はあるけど、そもそも言葉の響き自体がすごく気に入っている」。これはロラン本人が母の死をきっかけに考察、研究した写真についてのイメージ論を説いたエッセイだが、田代は撮影者と鑑賞者の関係性について書かれたチャプターからヒントを得た。作者視点の立場だけではなく、鑑賞者の視点においての「明るい部屋」にふさわしいものを、絵画の枠を取り払って生み出していく。マグカップ、スマホケース、ハンドタオルといったアイテムラインナップになっており、日用品に宿った田代作品のポップなカラーリングが生活を彩る。

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区別化することによって生まれる、新たな視点。

bright roomと画業「田代敏朗」を分業化することには、「田代敏朗」オリジナルの原画作品において進化を遂げていく狙いがある。「もうすでに『田代敏朗』というものは僕のものでもあるけれど、チームで動いている部分も強くなっています。ディレクションに力をいれた去年の展示作品『New Lanuguage, New Communication』や、今開催中の漢字をテーマにした『新境界』は僕自身のアイデアソースを具現化してくれているスタッフさんたちの賜物でもあります。今回、bright roomを立ち上げ、区別化することにより僕とスタッフ双方のスキル、キャリアアップになるといいなと思っています」田代は常に、観察者の視点で「田代敏朗」を見つめ、人の喜びにつながるアイデアの具現化に努める。主観だけでない観察者の視点は、bright roomのロゴにも反映されている。後ろから光が漏れているような見え方のイメージを伝え、作成してもらったそうだ。そこには本誌の取材でも話してくれた、作品を制作する上で大切にしているという、飽きずに愛せる、愛されるエッセンスが詰まっている。ほんの一瞬視線を留め、がっちりと心を掴む仕掛けが随所に散りばめられているのだ。自然と生活に馴染む気兼ねのない「なんかいいよね」という感覚を、購入してくれた人と共有するために田代は思いを巡らせる。bright roomからはこれからさまざまなアイテムがリリースされる予定。きっと日常に喜びという色を与え、明るく照らしてくれるはずだ。

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手帳型スマホケース 

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スマホケース

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マグカップ

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ハンドタオル

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その他bright roomについての詳細はオフィシャルウェブサイトまで

http://www.brightroombytoshiakitashiro.com/

田代敏朗展開催中
渋谷より作品がお引越しして、
目黒西小山WAREHOUSE MEGURO GALLERYにて
同時開催されている「新境界」「NOW AND THEN」。
全く新しいコンセプトの「新境界」、
そして2016年までの作品が一挙に公開されている
「NOW AND THEN」。
新旧の交錯を味わいながら是非この機会に
皆様のご来場をおまちしております。
Wooly Arts
◆Toshiaki Tashiro NEW EXHIBITION
「新境界」「NOW AND THEN」
2017.02.17 (金) - 03.17 (金)
13:00-20:00 (日曜のみ12:00-19:00)
CLOSE: 月・火・水
at WAREHOUSE MEGURO GALLERY
東京都目黒区原町1-19-15 1F
http://warehouse-tokyo.com

オフィシャルフェイスブックより

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田代敏朗(タシロトシアキ)
画家

1980年 佐賀県生まれ。佐賀県立佐賀北高校芸術コース美術学科卒業。私立大阪芸術大学芸術学部映像学科中退。巡回展や雑誌、ブランドとのコラボレーションや自身のメディア出演も数多くこなしながら、作品を制作。2013年より個人での活動と並行してWooly Artsと提携契約を結ぶ。ひよ子子本舗吉野堂の100周年でタイアップし、「DOUX D'AMOUR」の商品パッケージやショウケースをデザイン。原画提供などを行った。2016年、最新の作品集『New Lanuguage, New Communication』を刊行。巡回展を行う。2016年より山梨県北杜市武川で暮らしている。

Text/Tomohisa MOCHIZUKI

Photo/Doryu TAKEBE

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ブルースターマガジン誌面で一年間にわたりJIT株式会社で働く人や事業を取り上げてきた。「山梨を元気に」というスローガンのもと、リサイクルインク製造、食品開発やセレモニーなど、日常にかかわるさまざまな事業を展開。地方企業の突出したロールモデルとなるべく躍進を続けている。人こそが資本というスタンスで、外部講師を招いた社内教育や、社内託児所の設置など女性の働きやすい環境づくりにも力を注ぐ。地域や社会貢献の施策として障害者の雇用も積極的に行っており、地域スポーツ、アートなどへの協賛を惜しまない。取材を通して見えてきたのは社員1人1人がきちんとした使命感を持っていること。どんな役割であれ、関係のない部署も、関係のない人もいないことを自覚していた。みんなが何かしらのミッションを持ち、仕事にのぞんでいるのだ。小さな積み重ねが大きな組織や物事を動かしていく。JITにはそんな気概が満ちあふれている。働き方において仕事か作業かは大きな違いがある。仕事とは言われたことをただやるだけではない。方法を工夫し、自分以外の、他者の目線や立場で客観的に物事を考えなくてはならない。相手を思いやり、気持ちを汲み取った上で、尚且つ、自分の思いを相手に伝えることが肝要なのだ。そういった視点や考え方を養うには、人も含めた環境に大きく左右される。今までの自分を変えたい、人として成長したい、責任ある仕事をしたい。そういった人の思いを実現してくれる環境がジットにはある。自身がステップアップしていくためのヒントを得られるかもしれない。まずは知ることからはじめてみよう。

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以下、JITのリリース情報より転載。
【自社説明会】
創業社長である石坂が、直接学生の皆さんに、創業への思いや今後のビジョンをお話させていただきます。経営者の話を直接聞けるので、就活にもきっと役立ちます!
また、社員も多数参加し、パネルディスカッション形式で、お仕事の内容や、なぜジットに入社をしたのか、生の声を聞くことができます!
少しでも興味をもってくださったあなた!ぜひマイナビからエントリーください。直接お電話いただいても構いません。

■日時
㈰4月8日(土)15時~
㈪5月13日(土)9時~
㈫7月8日(土)9時~
㈬9月2日(土)9時~

■場所(全スケジュール共通)
ジット甲府プラザ
〒400-0042
山梨県甲府市高畑2-19-2

■持ち物
筆記用具

■内容
創業社長による講演
社員によるパネルディスカッション
質疑応答
今後の選考スケジュールのご案内
※選考を希望される方については、その場で適性検査を実施いたします。

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山梨の地で100年続く一ノ瀬瓦工業は瓦の施工や設計を手がける。代表一ノ瀬靖博氏は、新しい瓦の可能性を打ち出すべく、瓦を使った生活用品を発表した。icci KAWARA PRODUCTS(イッチカワラプロダクツ以下icci)のデザインディレクションを手がけたのは、A BATHING APEのグラフィックデザイナーを経て多方面に活躍するメディアクリエイター、ハイロック氏。ファッション文化と伝統工芸の融合はいかにして誕生したのか。日本に渡り1400年以上の歴史を持つ瓦の可能性とこれから。

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屋根の上からテノヒラの上に。

―一ノ瀬さんは地元山梨で100年続く一ノ瀬瓦工業を率いる瓦のスペシャリストで、ハイロックさんというと世の中のさまざまなプロダクトや物事を紹介していたウェブメディア「Fresh News Derivery(FND)」、その第二章となる「HIVISION」の印象からデジタルガジェットや最新のアイテムに強いイメージを抱きます。どのような経緯で、お二人はタッグを組むことになったのでしょうか。

一ノ瀬靖博((以下:一ノ瀬):100年の節目に、何か新しいことをしようと考えていました。伝統の瓦を使い今までにない瓦の見せ方、使い方の提案をしたかったんです。そこで僕の妻がかつて働いていた職場でハイロックさんと同僚だったことを知っていたので、ダメでもともと、相談に乗ってもらいないか打診してもらったのが始まりです。

ハイロック:知り合いの頼みとはいえ、瓦のことを何も知らないから、まず瓦について教えてもらうことを最初にしました。知らなければ、自分がやるべきかどうか、やる気があってもできることなのかどうか判断できないからね。一ノ瀬くんの熱意を感じたのは、机の上での説明だけでなく、製造の現場へ連れていってくれたことですね。

一ノ瀬:瓦の産地である兵庫県の淡路島や愛知へと一緒に足を運びました。実際に瓦を見て、触れてもらったほうが理解してもらえるんじゃないかと思ったんです。

ハイロック:現場を見るって言っても、火入れや焼き上がりだけじゃなくて、原料となる土を掘るところから全部見せてくれたんですよ。いきなり荒々しい雰囲気の採掘場に車で連れて行かれて(笑)

―少し恐いですね(笑)

ハイロック:海外ドラマだったらこのあと事件が起きそうなイメージの(笑)

一ノ瀬:恐い思いをさせるつもりはなかったのですが(笑)ファッション業界を経て、最新のプロダクトに精通している人に対し、いかに瓦をプレゼンして興味を持ってもらえるかを考えたんです。その上で興味を持ってもらえたことは嬉しい。瓦の魅力というか、可能性を感じてくれたのだと思います。

ハイロック:瓦は今まで触れてきたことはなかったので、良くも悪くも衝撃的でした。伝統工芸なので大切にしなければならないコアもあるし、逆に変えていかないといけないという側面も見えてきました。これをやることは僕にとって、もってこいの仕事だと感じ、引き受けることにしたんです。

―一ノ瀬さんの熱意と、瓦のさらなる可能性を感じ、ハイロックさんがプロジェクトに参加することになったんですね。「FND」が2015年をもって一旦終了となる後半では御守りや御札を入れる専用ケース「Kamidana」や「WTAPS×寅壱」のコレクションなど日本の伝統や職人に通じるプロダクトもご紹介されていましたよね。そういったアンテナが、icciをやることに繋がっているのかなというのを感じました。今までご自身でプロダクトを制作されたことはあるのでしょうか。

ハイロック:DIYは家でもよくやってるけれど、人の手にわたるプロダクトをゼロからつくることは初めてでした。日本の伝統工芸品ということも踏まえ自分にとって新しいステージの第一歩になるかと。そして、誤解を恐れずにいうと、瓦の魅力を伝えるというのは簡単だと思ったんです。「日本のヒトカケラを屋根の上からテノヒラの上に」というのがicciのコンセプトとなっていて、屋根から人の手に渡してあげることが僕たちの最初の仕事。だって、それだけで新鮮ですよね。

一ノ瀬:日本の住居は古くから木と紙と土でつくられていました。今では紙や木は生活のなかに身近なものとしてありますが、土からつくられた瓦だけは生活空間において屋根の上にしかなかった。日本の心が根付く瓦を、僕は生活の中に持って行きたかった。二人のイメージや思いが合致して、屋根の上からテノヒラの上に、というコンセプトが出来たんです。

―確かにこうして瓦が身近にあるのは新鮮な感覚です。僕が手で持った印象として思ったより軽量だなと。

一ノ瀬:思ったよりも重いという人がいたり、両方の感想がありますね。でもそれは、瓦に触れる機会がないからこそ、いろいろな感想が出てくるんだと思います。

―まさにコンセプト通り、瓦に触れた人の驚きや反応もicciの楽しみというか魅力なのかもしれません。icciの名前やブランドロゴに関して教えてください。名前、とてもポップな響きで耳馴染みがいいですよね。

ハイロック:一ノ瀬瓦工業の「イチ」と日本一の「イチ」を重ねてicci(イッチ)にしました。「c」と「i」の間の「h」はあえて取りました。瓦屋根って見ると折り重なって連なっているじゃないですか。だから字面も連なるようなイメージにしたくて。ロゴは日本一の富士山に一文字のデザイン。一ノ瀬さんの話しからインスピレーションを得て、すぐに浮かびましたね。富士山のある山梨にも由来していてふさわしいかなと。

一ノ瀬:実は他にも名前の候補を考えて持って行ったんですが、ハイロックさんには見せていません(笑)一ノ瀬瓦工業の名刺に家紋がレイアウトされているんですけど、それをすごく気に入ってくれましたよね。

―icciのコースターにも使われている日本の家紋というのは確かに、もともとすごくデザインされたものですよね。

ハイロック:ルイ・ヴィトンの有名なモノグラムもジャパニズム、特に日本の家紋に影響を受けているといわれていますからね。icciのロゴは一ノ瀬の家紋をイメージソースにしているから、100年続く一ノ瀬瓦工業の歴史によって自然と導き出されたロゴデザインなんです。

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瓦の魅力を伝えるかたち
―ハイロックさんが思う瓦の魅力は特にどんなところだと思いますか。

ハイロック:色ですね。「いぶし銀」といわれる瓦特有の質感を伴った色です。最初に見たときに直感で素晴らしいと思いました。陶器に関して言えば、素材として適正なものは他にも色々ありますが、この色は瓦にしかない。

一ノ瀬:昔の製法では円型の窯の中に入れて1000℃以上の熱で焼くんです。一定以上の高温になったところで、松の葉を入れて密閉します。煙が発生し窯の中でいぶされた成分が焼き固められて瓦に吸着した色がいぶし銀です。

ハイロック:炭化するってことですよね。現代的な解釈をするとカーボネイド加工といった感じ。

一ノ瀬:京都など日本の古都と呼ばれる場所では多くの瓦葺き屋根を見ることができますが、どこか厳かで、安らかな気持ちになる。そこにはいぶし銀の色が作用しています。瓦は住居を守る機能の一部として古くから使われてきましたが、それだけではなく、魔除けや厄除けの意味合いの多い、デザインされた瓦もあることから、平穏の暮らしを願う人々の祈りのような気持ちが込められています。

ハイロック:第一ステップとして、いぶしの瓦をテノヒラの上に持ってくることを決めて、第2ステップはそれをどんなかたちに落とし込むかを考えました。

―デザインについてはお二人でどのように決めているのでしょうか。各々の役割分担などはありますか?

ハイロック:アイデア出しは一ノ瀬くんと二人で互いにあれこれと話しながらやっていますよ。

―バナナやリンゴ、ドルマークなんかは、すごくハイロックさんらしさを感じます。

一ノ瀬:リンゴとかバナナは最初冗談かと思った(笑)僕が瓦葺士として普段目にしている瓦とは違いますから、思いつかないアイデアですよね。

ハイロック:いぶし銀の良さを伝えるのを念頭において、機能よりもまず、ディテールで見せたかった。自分の欲しい置物を思い浮かべたときに出てきたのがリンゴやバナナ、ドルマークのモチーフだったんです。

一ノ瀬:アナログな瓦職人と最先端のシーンを闊歩するデジタルな人が意見を出し合うってことだから、やりとりはいつも戦いです。最初は違和感を感じたりすることもあります。でも不思議と腑に落ちるんです。自分にない感性でアイデアを出してくれて、かたちにしてみたらすごくいい。納得させてくれる説得力があり、驚きや発見がありますね。

―一ノ瀬さんもその斬新なアイデアに驚いたということですから、瓦を焼く業者さんはもっと困惑したんじゃないですか?反応はどんなものだったんですか?

ハイロック:もともと瓦には鬼瓦みたいな精密なものがある。僕の感覚としてはフィギュアの造形師に近いと思っていて。だからつくれないってことはないだろうと思ってはいました。実際、楽しんでやってくれているようです。こんなかたち焼いたことないとは思っているかもしれないけれど(笑)

一ノ瀬:瓦の産地は意外と新しい物事に寛容で、他分野のことにも目を向けている。伝統工芸を残していくんだという信念を感じられます。僕は産地の職人たちから、瓦のクリエイターとして刺激を受けていますね。

ハイロック:ものづくりをする上で、職人さんや業者さんとの戦いはつきものです。今回のプロジェクトに関しては理解もしてくれているし、善戦してくれていると思います。

一ノ瀬:水面下で一年以上、試作とブラッシュアップを重ねてきましたから、産地もやっと発表できますね!と喜んでくれていましたよ。

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瓦の可能性を求めて。
―発表した感触はいかがですか。発表から間もなく「HYPEBEAST」に大々的に紹介されていて、山梨から生まれたプロダクトが掲載されていることが嬉しくて、誇らしい気持ちになりました。

一ノ瀬:おかげさまで他に類を見ないくらい、多様なメディアに取り上げてもらっています。

ハイロック:カルチャー誌はもちろん、「HYPEBEAST」のようなファッションに特化したメディアが取り上げてくれるのは嬉しいですよね。感度が高いところも気にしてくれているという。

一ノ瀬:今回ウチが100年企業で瓦の新しい可能性を軸に、新しい事業をやりたいと発案したことが始まりなんだけれど、そこにハイロックさんが携わってくれたことで、ファッションやデジタル分野に、フォトビジュアルを担当してくれたCAFENOMAさんはインテリア分野など、広く異業種の方々にアプローチすることができました。各々の業界の専門性と感性がクロスオーバーしたプロダクトだからこそ、それが実現できたんだと思います。

ハイロック:最初に言ったように瓦自体に素材としての魅力や面白さを感じたので、プロダクトさえしっかりいいものを造ることができれば自然と周囲が反応してくれるだろうとは思っていました。

―一ノ瀬瓦工業のプロジェクトにハイロックさんが携わり、それをあえて押し出さず商品そのものにフォーカスしているところに、icciのブランド美学が伺えます。プロダクトの力が反響につながっていますよね。今後のラインナップはどのように考えていますか?

一ノ瀬:第2弾としては、いぶし銀だけでなく、違う瓦の表情も見せたいですね。ハイロックさんと話しながら、いろいろな提案をしようと考えています。

ハイロック:今回はオーソドックスな、いぶし瓦にフォーカスしましたが色のついた陶器の瓦だったり構想は他にもあります。他の業種やブランドとコラボレーションしたりとか。シーズン2も乞うご期待といった感じですね。

一ノ瀬:取り扱ってくれる店舗や問い合わせも増えています。今後は海外の方にも日本伝統の瓦を、icciを通し手にとってもらいたいと考えています。

―これからの展開も非常に楽しみです。最後にお二人がicciでつくってみたいものってなにかありますか。

ハイロック:アウトドアにハマっているので、瓦のアウトドアグッズがあったらいいなと思っています。カヌーをやりたくて始めたアウトドアですが、山梨で一ノ瀬さんとも一緒にキャンプしているんですよ。淡路島の産地を訪ねたときは、ホテル取らずにキャンプしましたからね(笑)

一ノ瀬:月1くらいでやっています(笑)山梨県の本栖湖はカヌーがさかんなので誘ってみたら気に入ってくれました。瓦とアウトドアっていうカテゴリは今までないから面白いものができそうですよね。

―アウトドアで使うものだと、折りたためたりといった携行性が求められますよね。瓦というのは一見、不向きにも思えますが。

ハイロック:もともとは屋根の上、アウトドアにあったものだから、不可能ではないはずです。そして、不向きに見えるものだからこそ、ハマッたときに面白いものができるんですよ。

瓦が日本に伝来して1400年。100年続いた瓦企業が伝統を守るために、新しい挑戦をする。これは簡単な決断ではなかったはずだ。瓦の良さを伝え、受け継いでいきたいという一ノ瀬氏の熱意は名ばかりの伝統ではなく、icciを通して瓦への愛を感じることができる。その思いにハイロック氏も呼応し、瓦をもっと面白くしようとアイデアを巡らせる。一ノ瀬氏の言葉を借りれば、デジタルとアナログな二人。しかし両者ともが職人であり、二つの感性によってicciはかたちとなったのだ。インタビューを行ったのは6月の半ば、現在、地元山梨ではicciのオフィス兼直営店オープンに向けた工事が行われ、取り扱い店舗も増えている。屋根の上から人々の生活と、平穏を見守り続けてきた瓦。100年後、家の中で触れることがスタンダードな姿になっているかもしれない。icciはその可能性に満ちた商品である。

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一ノ瀬 靖博 (icci 代表 / kawaraクリエイター)
幼い頃よりアートの世界に興味を抱く。22歳で一ノ瀬瓦工業に入社。瓦葺士として技術を磨きながら、音楽・絵画などの活動を行う。2007年にイタリア・2008年にオーストラリアに短期留学。日本の文化である瓦を世界に広めるべく2015年にイエール大学の「Japanese Tea Gate Project」に参加。現在は、100年続く瓦カンパニーの代表として瓦の可能性を探求し続けている。
http://icci-kawaraproducts.com/

ハイロック(icci アートディレクター)
アパレルブランド「A BATHING APE®」のグラフィックデザインを経て2011年独立。表現の場を選ばないメディアクリエイターとしてのキャリアをスタート。ファッション誌GRINDでの連載をはじめメディア各方面にてグッドデザインアイテム、最新のガジェットを紹介。著書に『I LOVE FND ボクがコレを選ぶ理由』。
http://www.hi-vision.net/

主要取り扱い店舗

la kagu

〒162-0805 東京都新宿区矢来町67番地
営業時間:11:00〜20:30
CAFE:11:00〜20:30(L.O 20:00)

Tel: 03-5227-6977

CAFE:03-5579-2130

http://www.lakagu.com/

SHIPS原宿

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前4-25-13 MICO神宮前

Tel : 03-5414-5747

営業時間 : 11:00~20:00

https://www.shipsltd.co.jp/shop/663/

icci KAWARAPRODUCTS オンラインストア

http://icci.shop-pro.jp/

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Text/Tomohisa Mochizuki

Photo/Doryu Takebe

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働くママのために生まれた、簡単フォトブックアプリ。

2016年夏号のブルースターマガジンに掲載されている「シトラス」フォトブックアプリは、アプリで簡単にフォトブックが作成できる最新のフォトアプリです。まだiPhone版がリリースされたばかりでAndroid版は8月下旬にリリース予定。アプリをダウンロードしたら、カメラロール内の写真を選んで、カバーデザインと配送先を指定。あっという間に、世界に一冊だけのオリジナルアルバムが自宅に届きます。

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プレゼントや写真データの整理に。豊富なカバーデザイン。

子どもの可愛い瞬間をせっかく撮りためていても、なかなか現像する時間がないというママさんにピッタリ。思い出の写真をアルバムにすることで、スマートフォンの写真を整理。データのダイエットができます。ご両親へのプレゼントにも最適ですね。ママさんだけでなく、カップルの記念日や、友達の誕生日のギフトにもオススメのアプリです。シトラスの特長は豊富なカバーデザイン。シチュエーションや季節、用途に応じて、幅広いデザインから選ぶことができます。アルファベットやナンバーをモチーフにしたデザインもあるので、シリーズとして揃えることも可能。

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料金プランは二通り。

好きな時に一冊づつオーダーしたいという人には、ワンタイムプラン。送料込みで一冊1800円。毎月定期的にオーダーしたい。という人にはサブスクリプションプラン。送料込980円。初回一冊の制作分は無料になります。また、1ヶ月間、オーダーしなかった場合は「くりこしチケット」が発行されるので、翌月にオーダーを繰り越すことが可能。例えば、8月、9月に撮った夏の思い出を、10月に3冊まとめてオーダーして、おじいちゃん、おばあちゃんや友人、両親にプレゼントするといったことが出来る、使い勝手のいいお得なプランです。

citrus3.jpg8月20日・21日のこどもの城フェスタにシトラスブースが出店。

山梨県最大のファミリーで楽しめるイベント、やまなしこどもの城フェスタに出店が決定。本のような装丁と多様なデザインが魅力のフォトブックの実物を手にとり、アプリの使い方や詳細をその場で聴くことができます。シトラスが提案する新しいフォトライフをぜひこどもの城フェスタで体感してみてください。

シトラスフォトアプリ オフィシャルサイト

https://hello-citrus.jp/

こどもの城フェスタ イベント情報

http://www.uty.co.jp/event/info.php?no=349

ブルースターマガジンとウェブ記事を読んでくれた方限定でフォトブックチケットをプレゼントします。

シトラスアプリをダウンロードしたら、当ウェブサイトのコンタクトからメールフォームを記入して、送信ください。

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