BLUE STAR|ブルースターマガジン

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日本初の「野外映画フェス」

10月。山梨県北杜市、白州・尾白の森名水公園べるがでの夜は、本格的な冬の到来を前にしながらかなり冷え込む。にもかかわらず、2000人を超える人々が夜空と交差する森の中で、素晴らしいひとときを共有した。夜空と交差する森の映画祭の名にふさわしい星空と月明かりに照らされて。「星が見えなかったら嫌なので、星空と交差する、ではなく夜空と交差する、という名前にしました」発起人であり実行委員会の代表を務める佐藤 大輔さんは皮肉まじりに言っていたが事実、野外イベントに雨は大敵。森の映画祭開催の週は不安定な天気が続き準備が難航したという。それでも、野外にこだわった。昨年の開催以降、ロケハンは40箇所以上にのぼる。佐藤さん自身の地元、山梨に決めた今年の森の映画祭は、天候を見事に味方につけた。「さあ、映画の世界に出掛けよう」という言葉の通り、胸躍る冒険が待っていた。

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映画と現実のはざまで

時間をもう少しさかのぼる。当日を2週間後に控えた9月の中頃、実行委員会の拠点のひとつである都内某所のアトリエを訪ねた。一足早く到着していたのは映画祭のアートディレクターであり、副代表を兼任する上久保充さん。そこには当日の会場装飾に使用されるアイテムが所狭しと並ぶ。佐藤さんと共に、そのひとつひとつを手に取り紹介してくれた。既存の製品をそのまま使うのではなく、手が加えられ、全く別のものとして生まれ変わって出番を待ちわびる。会場のコンセプトに合わせ、フォルムと質感を追求しつくりこまれた道具の数々は「森の映画祭において、世界観こそが全て」と語る二人の言葉を裏付けるには充分な説得力があった。

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開催当日。アトリエで見た道具たちはスタッフの手によって命を吹き込まれ、輝いていた。入り口のゲートでは記念写真を撮るために来場者が行列をなしている。付近のスタッフが手際よく、写真撮影し笑顔で誘導しているのが印象的だった。さっそく上映が始まる前に会場内を散策。各上映ステージ毎の世界観が表現された装飾に息を呑む。森ですれ違う来場者からも上映前から期待を寄せる声が聞こえてくる。メイン会場の入り口に吊された古い靴は、森の映画祭のオープニング長編作品に選ばれた「ビッグ・フィッシュ」そのまま。MAPを片手に会場を歩き回っている途中、「映画と現実の境界線を曖昧にすることで、今までにない映画体験を実現したい」という佐藤さんの言葉を思い出し、気づいてしまった。彼らの思惑通り、映画と現実のはざまでイマジネーションの迷宮をさまよっていることに。

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森の映画祭のこれから

佐藤さん、上久保さんはそれぞれがアイデアマン。次から次へと湧き出るアイデアと探求心は森の映画祭において大きな原動力となっている。「次は森ではなく、島の映画祭になるかもしれないし色々な可能性を求めていきたい」場所性にとらわれることなく、新たな映画と現実を結ぶ空間をつくるため、開催地は固定しない方針だ。「今回やりきれなかったことはたくさんある。例えば、スパイ映画のように張り巡らされた赤外線探知をくぐり抜けないと辿り着けない会場とか(笑)トライしたいアイデアはまだまだたくさんあります」実現するかは佐藤さんの女房役、アートディレクター上久保さんの手腕が問われることになりそうだ。二人が取り組むプロジェクトの源泉は一枚企画書という、A4用紙一枚にアイデアをまとめる方法論。この夏原宿で開催されたブルースターマガジンのイベントで、ゲストスピーカーとして登壇してくれた際に紹介してくれたものだ。「いい企画は一枚にまとめてもいい企画でなくてはならない」というポリシーのもとに行われる、二人にとってのルーティン。この一枚企画書から実現につながったことも多い。森の映画祭だけでなく、今後の二人の動向にも注目していきたい。

 

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サトウダイスケ監督作品 三戸なつめ主演「cut buck」

佐藤さんは映画祭の運営だけではなく、映像作家として自身でも短編映画を撮る。ブルースターマガジン(2015 Autumn ISSUE 11 )でも書いているとおり、日本におけるショートフィルム文化の認知と普及のための入り口をつくることが、森の映画祭のミッションであり、発足の理由のひとつ。サトウダイスケとしてメガホンをとり、トータルコスメブランドLorettaとコラボレーションした作品「cut buck」は森の映画祭、ロマンチックバレーで上映された。主演を務めるのはモデル、アーティストなど多方面で活躍する三戸なつめさん。中田ヤスタカ氏プロデュース「前髪、切りすぎた」で歌手デビュー。今秋公開された映画「ピクセル」の日本語吹き替え版主題歌「8ビットボーイ」を歌い、来年1月公開の「パディントン」では吹き替え版で娘役の声優も務めている。今、日本映画界でも注目を集めるイット・ガールをキャスティングした渾身の作品である。

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2つ以上のカットを交互に差し込む編集技法を用いて、一人の女性の成長を美しく綴るヘアサロンを舞台としたショートフィルム。タイトルは作中にも取り入れられるカットバック技法とヘアサロンにおけるカットがかけられている。髪を切るということ自体が古来より、日本では神聖な儀式であるのだが、女の子にとっての髪はいつでも特別なもの。髪を切るのは、心が生まれ変わる貴重な時間。時の流れと対比して、少女はだんだんと自分らしさを見つけていく。チャームポイントである切りすぎた前髪パッツンヘアー以外にも、様々なヘアスタイルで登場する三戸なつめさんはとても愛らしく、観客を魅了した。会場のどこからともなく「かわいい」と声があがった。なじみのヘアサロンで繰り広げられる時々の会話。誰もが経験し得るであろう、何気ない日常をドラマチックに切り取り、普遍的な日々、時間の尊さに気づかせてくれる本作はスポンサードの作品でありながら、知る限りの佐藤さんらしさを感じることができた。「cut buck」は今月から1ヶ月間の期間限定で公開されている。今年いっぱい、あと1週間ほど下記リンクにて視聴できる。流れる季節と時間のなかで迷い、成長していく繊細な心の動きを可愛らしく描いた本作をぜひ1度見てみてほしい。

「cut buck」

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監督:サトウダイスケ 主演:三戸なつめ

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「マッドマックス」みたいでアガリますね。と鎖部分の質感にはしゃぐ(左)佐藤 大輔さんと冷静に見守る(右)上久保 充さん。9月某日 夜空と交差する森の映画祭実行委員会アトリエにて。

佐藤 大輔
夜空と交差する森の映画祭実行委員会代表。1988年生まれ。山梨県甲府市出身。山梨学院付属高校から上智大学理工学部に進学。在学中に共同で起業、映像制作とIT分野に携わる。現在フリーランスとして映像制作案件を手がける。自身でもショートフィルムを制作。森の映画祭では代表として企画立案から運営を取り仕切る。好きな映画は「ザ・ロック」「落下の王国」「パンズ・ラビリンス」

上久保 充
夜空と交差する森の映画祭実行委員会副代表。1988年生まれ。青森県五戸町出身。日本工学院専門学校グラフィックデザイン科卒業後、およそ4年間、広告制作事務所に勤務。現在フリーランスとしてグラフィックデザインやイラストレーションを手がける。森の映画祭では各ツールのデザインから、会場演出を統括するアートディレクター。好きな映画は「ミスト」「her」「パーフェクトブルー」

夜空と交差する森の映画祭 2015 オフィシャルウェブサイト

http://forest-movie-festival.jp/

TEXT/Tomohisa MOCHIZUKI

PHOTO/Doryu TAKEBE

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