BLUE STAR|ブルースターマガジン

icci KAWARA PRODUCTS

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山梨の地で100年続く一ノ瀬瓦工業は瓦の施工や設計を手がける。代表一ノ瀬靖博氏は、新しい瓦の可能性を打ち出すべく、瓦を使った生活用品を発表した。icci KAWARA PRODUCTS(イッチカワラプロダクツ以下icci)のデザインディレクションを手がけたのは、A BATHING APEのグラフィックデザイナーを経て多方面に活躍するメディアクリエイター、ハイロック氏。ファッション文化と伝統工芸の融合はいかにして誕生したのか。日本に渡り1400年以上の歴史を持つ瓦の可能性とこれから。

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屋根の上からテノヒラの上に。

―一ノ瀬さんは地元山梨で100年続く一ノ瀬瓦工業を率いる瓦のスペシャリストで、ハイロックさんというと世の中のさまざまなプロダクトや物事を紹介していたウェブメディア「Fresh News Derivery(FND)」、その第二章となる「HIVISION」の印象からデジタルガジェットや最新のアイテムに強いイメージを抱きます。どのような経緯で、お二人はタッグを組むことになったのでしょうか。

一ノ瀬靖博((以下:一ノ瀬):100年の節目に、何か新しいことをしようと考えていました。伝統の瓦を使い今までにない瓦の見せ方、使い方の提案をしたかったんです。そこで僕の妻がかつて働いていた職場でハイロックさんと同僚だったことを知っていたので、ダメでもともと、相談に乗ってもらいないか打診してもらったのが始まりです。

ハイロック:知り合いの頼みとはいえ、瓦のことを何も知らないから、まず瓦について教えてもらうことを最初にしました。知らなければ、自分がやるべきかどうか、やる気があってもできることなのかどうか判断できないからね。一ノ瀬くんの熱意を感じたのは、机の上での説明だけでなく、製造の現場へ連れていってくれたことですね。

一ノ瀬:瓦の産地である兵庫県の淡路島や愛知へと一緒に足を運びました。実際に瓦を見て、触れてもらったほうが理解してもらえるんじゃないかと思ったんです。

ハイロック:現場を見るって言っても、火入れや焼き上がりだけじゃなくて、原料となる土を掘るところから全部見せてくれたんですよ。いきなり荒々しい雰囲気の採掘場に車で連れて行かれて(笑)

―少し恐いですね(笑)

ハイロック:海外ドラマだったらこのあと事件が起きそうなイメージの(笑)

一ノ瀬:恐い思いをさせるつもりはなかったのですが(笑)ファッション業界を経て、最新のプロダクトに精通している人に対し、いかに瓦をプレゼンして興味を持ってもらえるかを考えたんです。その上で興味を持ってもらえたことは嬉しい。瓦の魅力というか、可能性を感じてくれたのだと思います。

ハイロック:瓦は今まで触れてきたことはなかったので、良くも悪くも衝撃的でした。伝統工芸なので大切にしなければならないコアもあるし、逆に変えていかないといけないという側面も見えてきました。これをやることは僕にとって、もってこいの仕事だと感じ、引き受けることにしたんです。

―一ノ瀬さんの熱意と、瓦のさらなる可能性を感じ、ハイロックさんがプロジェクトに参加することになったんですね。「FND」が2015年をもって一旦終了となる後半では御守りや御札を入れる専用ケース「Kamidana」や「WTAPS×寅壱」のコレクションなど日本の伝統や職人に通じるプロダクトもご紹介されていましたよね。そういったアンテナが、icciをやることに繋がっているのかなというのを感じました。今までご自身でプロダクトを制作されたことはあるのでしょうか。

ハイロック:DIYは家でもよくやってるけれど、人の手にわたるプロダクトをゼロからつくることは初めてでした。日本の伝統工芸品ということも踏まえ自分にとって新しいステージの第一歩になるかと。そして、誤解を恐れずにいうと、瓦の魅力を伝えるというのは簡単だと思ったんです。「日本のヒトカケラを屋根の上からテノヒラの上に」というのがicciのコンセプトとなっていて、屋根から人の手に渡してあげることが僕たちの最初の仕事。だって、それだけで新鮮ですよね。

一ノ瀬:日本の住居は古くから木と紙と土でつくられていました。今では紙や木は生活のなかに身近なものとしてありますが、土からつくられた瓦だけは生活空間において屋根の上にしかなかった。日本の心が根付く瓦を、僕は生活の中に持って行きたかった。二人のイメージや思いが合致して、屋根の上からテノヒラの上に、というコンセプトが出来たんです。

―確かにこうして瓦が身近にあるのは新鮮な感覚です。僕が手で持った印象として思ったより軽量だなと。

一ノ瀬:思ったよりも重いという人がいたり、両方の感想がありますね。でもそれは、瓦に触れる機会がないからこそ、いろいろな感想が出てくるんだと思います。

―まさにコンセプト通り、瓦に触れた人の驚きや反応もicciの楽しみというか魅力なのかもしれません。icciの名前やブランドロゴに関して教えてください。名前、とてもポップな響きで耳馴染みがいいですよね。

ハイロック:一ノ瀬瓦工業の「イチ」と日本一の「イチ」を重ねてicci(イッチ)にしました。「c」と「i」の間の「h」はあえて取りました。瓦屋根って見ると折り重なって連なっているじゃないですか。だから字面も連なるようなイメージにしたくて。ロゴは日本一の富士山に一文字のデザイン。一ノ瀬さんの話しからインスピレーションを得て、すぐに浮かびましたね。富士山のある山梨にも由来していてふさわしいかなと。

一ノ瀬:実は他にも名前の候補を考えて持って行ったんですが、ハイロックさんには見せていません(笑)一ノ瀬瓦工業の名刺に家紋がレイアウトされているんですけど、それをすごく気に入ってくれましたよね。

―icciのコースターにも使われている日本の家紋というのは確かに、もともとすごくデザインされたものですよね。

ハイロック:ルイ・ヴィトンの有名なモノグラムもジャパニズム、特に日本の家紋に影響を受けているといわれていますからね。icciのロゴは一ノ瀬の家紋をイメージソースにしているから、100年続く一ノ瀬瓦工業の歴史によって自然と導き出されたロゴデザインなんです。

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瓦の魅力を伝えるかたち
―ハイロックさんが思う瓦の魅力は特にどんなところだと思いますか。

ハイロック:色ですね。「いぶし銀」といわれる瓦特有の質感を伴った色です。最初に見たときに直感で素晴らしいと思いました。陶器に関して言えば、素材として適正なものは他にも色々ありますが、この色は瓦にしかない。

一ノ瀬:昔の製法では円型の窯の中に入れて1000℃以上の熱で焼くんです。一定以上の高温になったところで、松の葉を入れて密閉します。煙が発生し窯の中でいぶされた成分が焼き固められて瓦に吸着した色がいぶし銀です。

ハイロック:炭化するってことですよね。現代的な解釈をするとカーボネイド加工といった感じ。

一ノ瀬:京都など日本の古都と呼ばれる場所では多くの瓦葺き屋根を見ることができますが、どこか厳かで、安らかな気持ちになる。そこにはいぶし銀の色が作用しています。瓦は住居を守る機能の一部として古くから使われてきましたが、それだけではなく、魔除けや厄除けの意味合いの多い、デザインされた瓦もあることから、平穏の暮らしを願う人々の祈りのような気持ちが込められています。

ハイロック:第一ステップとして、いぶしの瓦をテノヒラの上に持ってくることを決めて、第2ステップはそれをどんなかたちに落とし込むかを考えました。

―デザインについてはお二人でどのように決めているのでしょうか。各々の役割分担などはありますか?

ハイロック:アイデア出しは一ノ瀬くんと二人で互いにあれこれと話しながらやっていますよ。

―バナナやリンゴ、ドルマークなんかは、すごくハイロックさんらしさを感じます。

一ノ瀬:リンゴとかバナナは最初冗談かと思った(笑)僕が瓦葺士として普段目にしている瓦とは違いますから、思いつかないアイデアですよね。

ハイロック:いぶし銀の良さを伝えるのを念頭において、機能よりもまず、ディテールで見せたかった。自分の欲しい置物を思い浮かべたときに出てきたのがリンゴやバナナ、ドルマークのモチーフだったんです。

一ノ瀬:アナログな瓦職人と最先端のシーンを闊歩するデジタルな人が意見を出し合うってことだから、やりとりはいつも戦いです。最初は違和感を感じたりすることもあります。でも不思議と腑に落ちるんです。自分にない感性でアイデアを出してくれて、かたちにしてみたらすごくいい。納得させてくれる説得力があり、驚きや発見がありますね。

―一ノ瀬さんもその斬新なアイデアに驚いたということですから、瓦を焼く業者さんはもっと困惑したんじゃないですか?反応はどんなものだったんですか?

ハイロック:もともと瓦には鬼瓦みたいな精密なものがある。僕の感覚としてはフィギュアの造形師に近いと思っていて。だからつくれないってことはないだろうと思ってはいました。実際、楽しんでやってくれているようです。こんなかたち焼いたことないとは思っているかもしれないけれど(笑)

一ノ瀬:瓦の産地は意外と新しい物事に寛容で、他分野のことにも目を向けている。伝統工芸を残していくんだという信念を感じられます。僕は産地の職人たちから、瓦のクリエイターとして刺激を受けていますね。

ハイロック:ものづくりをする上で、職人さんや業者さんとの戦いはつきものです。今回のプロジェクトに関しては理解もしてくれているし、善戦してくれていると思います。

一ノ瀬:水面下で一年以上、試作とブラッシュアップを重ねてきましたから、産地もやっと発表できますね!と喜んでくれていましたよ。

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瓦の可能性を求めて。
―発表した感触はいかがですか。発表から間もなく「HYPEBEAST」に大々的に紹介されていて、山梨から生まれたプロダクトが掲載されていることが嬉しくて、誇らしい気持ちになりました。

一ノ瀬:おかげさまで他に類を見ないくらい、多様なメディアに取り上げてもらっています。

ハイロック:カルチャー誌はもちろん、「HYPEBEAST」のようなファッションに特化したメディアが取り上げてくれるのは嬉しいですよね。感度が高いところも気にしてくれているという。

一ノ瀬:今回ウチが100年企業で瓦の新しい可能性を軸に、新しい事業をやりたいと発案したことが始まりなんだけれど、そこにハイロックさんが携わってくれたことで、ファッションやデジタル分野に、フォトビジュアルを担当してくれたCAFENOMAさんはインテリア分野など、広く異業種の方々にアプローチすることができました。各々の業界の専門性と感性がクロスオーバーしたプロダクトだからこそ、それが実現できたんだと思います。

ハイロック:最初に言ったように瓦自体に素材としての魅力や面白さを感じたので、プロダクトさえしっかりいいものを造ることができれば自然と周囲が反応してくれるだろうとは思っていました。

―一ノ瀬瓦工業のプロジェクトにハイロックさんが携わり、それをあえて押し出さず商品そのものにフォーカスしているところに、icciのブランド美学が伺えます。プロダクトの力が反響につながっていますよね。今後のラインナップはどのように考えていますか?

一ノ瀬:第2弾としては、いぶし銀だけでなく、違う瓦の表情も見せたいですね。ハイロックさんと話しながら、いろいろな提案をしようと考えています。

ハイロック:今回はオーソドックスな、いぶし瓦にフォーカスしましたが色のついた陶器の瓦だったり構想は他にもあります。他の業種やブランドとコラボレーションしたりとか。シーズン2も乞うご期待といった感じですね。

一ノ瀬:取り扱ってくれる店舗や問い合わせも増えています。今後は海外の方にも日本伝統の瓦を、icciを通し手にとってもらいたいと考えています。

―これからの展開も非常に楽しみです。最後にお二人がicciでつくってみたいものってなにかありますか。

ハイロック:アウトドアにハマっているので、瓦のアウトドアグッズがあったらいいなと思っています。カヌーをやりたくて始めたアウトドアですが、山梨で一ノ瀬さんとも一緒にキャンプしているんですよ。淡路島の産地を訪ねたときは、ホテル取らずにキャンプしましたからね(笑)

一ノ瀬:月1くらいでやっています(笑)山梨県の本栖湖はカヌーがさかんなので誘ってみたら気に入ってくれました。瓦とアウトドアっていうカテゴリは今までないから面白いものができそうですよね。

―アウトドアで使うものだと、折りたためたりといった携行性が求められますよね。瓦というのは一見、不向きにも思えますが。

ハイロック:もともとは屋根の上、アウトドアにあったものだから、不可能ではないはずです。そして、不向きに見えるものだからこそ、ハマッたときに面白いものができるんですよ。

瓦が日本に伝来して1400年。100年続いた瓦企業が伝統を守るために、新しい挑戦をする。これは簡単な決断ではなかったはずだ。瓦の良さを伝え、受け継いでいきたいという一ノ瀬氏の熱意は名ばかりの伝統ではなく、icciを通して瓦への愛を感じることができる。その思いにハイロック氏も呼応し、瓦をもっと面白くしようとアイデアを巡らせる。一ノ瀬氏の言葉を借りれば、デジタルとアナログな二人。しかし両者ともが職人であり、二つの感性によってicciはかたちとなったのだ。インタビューを行ったのは6月の半ば、現在、地元山梨ではicciのオフィス兼直営店オープンに向けた工事が行われ、取り扱い店舗も増えている。屋根の上から人々の生活と、平穏を見守り続けてきた瓦。100年後、家の中で触れることがスタンダードな姿になっているかもしれない。icciはその可能性に満ちた商品である。

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一ノ瀬 靖博 (icci 代表 / kawaraクリエイター)
幼い頃よりアートの世界に興味を抱く。22歳で一ノ瀬瓦工業に入社。瓦葺士として技術を磨きながら、音楽・絵画などの活動を行う。2007年にイタリア・2008年にオーストラリアに短期留学。日本の文化である瓦を世界に広めるべく2015年にイエール大学の「Japanese Tea Gate Project」に参加。現在は、100年続く瓦カンパニーの代表として瓦の可能性を探求し続けている。
http://icci-kawaraproducts.com/

ハイロック(icci アートディレクター)
アパレルブランド「A BATHING APE®」のグラフィックデザインを経て2011年独立。表現の場を選ばないメディアクリエイターとしてのキャリアをスタート。ファッション誌GRINDでの連載をはじめメディア各方面にてグッドデザインアイテム、最新のガジェットを紹介。著書に『I LOVE FND ボクがコレを選ぶ理由』。
http://www.hi-vision.net/

主要取り扱い店舗

la kagu

〒162-0805 東京都新宿区矢来町67番地
営業時間:11:00〜20:30
CAFE:11:00〜20:30(L.O 20:00)

Tel: 03-5227-6977

CAFE:03-5579-2130

http://www.lakagu.com/

SHIPS原宿

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前4-25-13 MICO神宮前

Tel : 03-5414-5747

営業時間 : 11:00~20:00

https://www.shipsltd.co.jp/shop/663/

icci KAWARAPRODUCTS オンラインストア

http://icci.shop-pro.jp/

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Text/Tomohisa Mochizuki

Photo/Doryu Takebe